【第32回】「命は誰のものか?」家族の願いと患者の想い──二人の死生観(後編)
前回に引き続き、「死生観」について語る後編です。「1分1秒でも長く生きてほしい」という家族の願いは、時に患者本人の望みとすれ違うことも…。数え切れないほどの「最期」に立ち会ってきた林が考える、医療者の本当の役割(=三途の川のプロのガイド)とは?早川自身が父を看取った際のリアルな葛藤も交え、「今をどう生きるか」を深く考えさせられる30分です。
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📖今週のよりぬき
・「なるべくその人らしい時間を長く」緩和ケア医の使命
・延命治療の意思を家族が決めてしまうジレンマ
・人生の結末を本人が選ぶことの大切さ
・ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の一歩先の考え方
・個々が人生に責任を持てる、リテラシーの向上を願う
早川:最初に改めて、クラウドファンディングについてお知らせをお願いします。
林:今回のクラファンは、5月いっぱいまでを予定しています。私ががんの専門医になるきっかけになったのは大好きだった父親ががんで亡くなったことで、ちょうど今年の5月がその50年目にあたります。神楽坂乳業も8年経って、よちよち歩きだったのがようやく独り立ちできるかもしれないところまで来ました。次のターンに向けて全力で進むための区切りとして、クラウドファンディングをさせていただいています。
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早川:URLはこちら。5月中ですので、ぜひチェックしてみてください。
📖第32回テキスト版
命は誰のものか?
ご家族が決めることへの違和感
早川:今回は、前回の放送の死生観の話の続きをお聞きしていきたいと思います。私事で恐縮なんですが、父を4年前にがんで見送りました。要介護5でしたが、ありがたいことに最後は自宅で逝くことができました。その時、苦しんでいないように見えたんです。これはケースバイケースだと思うんですが、人って最期に亡くなる時、周りから見ると壮絶な亡くなり方に見えても、実は脳内になんか気持ちよくなるような物質が出ているとか、そういう話を聞いたことがあるんですが……先生どうなんでしょう?
林:結構それね、昔から研究課題になっていて。100年以上前には「亡くなった時に魂が抜ける」という考えから、精密な体重計の上で亡くなる方を測定して「魂は何グラムだ」なんてことを真剣にやっていたお医者さんもいたくらいです。それは多分違うと思いますが、まあ、亡くなり方というのは本当に人それぞれです。
緩和ケア医というのは、できるだけその人らしい時間を長くすることが目標です。たとえば痛み止めを上手に使えば、本来笑って過ごせる時間を痛みや苦しみで失っている人を笑顔にしてあげられる。命が伸びるかどうかよりも、健康寿命を伸ばすという感覚に近い。「あと3ヶ月です」という方の命を4ヶ月にしようと思ってやっているわけではなくて、その人らしくきっちり走り抜けられるようにする。結果として2ヶ月になってしまうことがあっても、そこは、私は医師としてあまり気にしないところでした。
実際には、やれることがなくなった時に諦める医者はとっても多いと思います。それを悪いとは言わないんだけど、ちゃんとやればもっと患者さんにいい時間を長く過ごしてもらえるのに、と思うことは多々あった。だから、医者側の努力も必要だと思います。
ただ、痛み止めを使いたくないという方もいるんです。
早川:いるんですね。
林:います。すべてを受け入れて体感して死にたいという方もいる。逆に1mmも痛くなくしてくれという方の方が多いかもしれないけれど、本当に人それぞれです。私自身は痛かったり苦しかったりしながら亡くなるのは望まないですが、それも人それぞれでいいと思うんですよ。
早川:正解がないのは重々承知の上ですが……。がんで厳しい状況にある方のご家族に対して、先生が大事にしてほしいと思うことはありますか?
林:それはね、命は誰のものかという話に尽きると思う。患者さんと一緒にご家族が来られて、「もうやれる治療はこの一つだけです。ただ効果は低くて副作用も強いです」と説明した時に、患者さんが返事をする前にご家族が「それでもお願いします」と言う場面があるんです。その時にどうしても「なぜあなたが決めるんですか」という気持ちになってしまう。副作用を受けるのも、寿命が変わるのも、ご本人なのに。
早川:ご本人はどうされることが多いですか?
林:「私はどっちでもいいんですが、この人がやった方がいいと言うのでやります」という方が多い。そういう時にジレンマを感じることがよくありました。私はあなたを治療したいのに、なぜご家族の言うことを……という思いで。
早川:ああ……。
林:それから、意識がなくなってからはさらに難しくなりますよね。昏睡状態で、息も絶え絶えで今晩が山という方に対して、「1分1秒でも長く生かしてください。人工呼吸器でも何でもつけてください」とおっしゃるご家族は相当な数います。でも人工呼吸器というのは、気管の中に硬いチューブを入れて機械で呼吸させるものですよ。唾が引っかかれば苦しくてとてつもなく大変な中、そういう状態に置かれるわけです。しかもそれをやったところで、寿命が延びるのはせいぜい1〜2日のことが多い。
早川:ご家族がそう望む場合、先生はどうされていたんですか?
林:十分に説明した上でどうしてもと言われれば、やらないことはない。でも、それってご家族のためにやっているようになってしまう。「やってください」という人を納得させるための医療になってしまう。若い頃はそれに引っ張られることもありましたが、辞める数年前からはむしろ説得する側に回っていました。私が正しいわけじゃないけれど、自分の病棟で起きることについては、徹底的に事前から話し合うようにしていました。
早川父のケースに学ぶ
「本人が選んだ」ことの大切さ
早川:少し私事になるんですが。
父ががんでもう厳しいという時に、病院に残れば数ヶ月は持つかもしれないけれど、父は「銀婚式までに家に帰りたい」とずっと言っていました。意識がある間に本人に確認して、最後は家に帰ってもらうことにしました。
林:全然いいと思います。
早川:結果として帰宅後10日で逝ってしまったんですが、先生の「命は誰のものか」という話を聞いて、父に選んでもらったのは良かったんだなと改めて思いました。ただ正直、その決断が正しかったのかと今でも思うことがあって。
林:全然いいよ。本人が選んだんですから。自分がお父様の立場になったら、その対応がいいでしょう?
病院に残ってモヤモヤしながら過ごすより、帰りたかった場所に帰れたわけですよね。
ただ、コロナ禍にコロナで亡くなった患者さんたちは、本当に切なかったです。当時はコロナってとてつもなく強い病原性がある菌みたいな扱いでしたから、ご遺体を布でぐるぐる巻きにして、さらにビニールで包んで出すしかなかった。
あれは……仕方のない時期だったかもしれないけど、切ない。抱きしめることも、体温を感じることも、顔を見ることもできない。面会もできないから、亡くなるまで連絡もなく、亡くなったらぐるぐる巻きになった状態で受け取りに来てもらうという。医療期間側の準備も整っていなくて混乱していた部分もあったけれど、あの頃の見送りの形は二度とやりたくないような切なさでしたね。
早川:そういうお話などを伺って今思うのは、やはり、元気なうちに自分がどうしたいかを考えておくことは大事だなと思います。
林:ACP、アドバンス・ケア・プランニングという考え方が今全国的に普及し始めています。「急な延命はしないでほしい」「人工呼吸器は嫌です」など、事前に思うことを書き留めておく、という。本人が意識を失ってしまっても、それを元に判断できる仕組みです。ただ難しいのは、ピンピン元気な時に思っていたことと、寝たきりになって苦しんでいる時に思うことは、大抵の方で変わってくるということで。
早川:たとえば、どんなふうに変わるんですか?
林:外来で元気な患者さんに「最期どこで過ごしたいですか?」と聞くと、ほとんどが「できれば家で」と言う。でも実際に体調が悪化して入院している状態で同じことを聞くと、「もうここでいい」という方が圧倒的に多くなる。自分が何もできなくなった時に、ここを離れたらどうなるかを想像するからです。医者も看護師もいて手厚くケアしてくれる病院に対して、家に帰ったら娘が毎日眠れないんじゃないかとか、自分の介護の様子を見られるのがつらいとか、そういうことを考えると「現実的には無理だ」となってくる。だからACPは毎日更新しないといけないくらい、本来は流動的なものです。
しかも「お父さんはこう言っていましたから、これでいいんですよね」という、まるで裁判の証拠のように使うような医療側の人もいる、というのも問題です。とても難易度が高いテーマですね。
早川:そうなると、林先生個人として、20年後にこういう形になってほしいという理想はありますか?
林:やはり1人1人が自分の人生に責任を持てるような、リテラシーが上がってきてほしいと思います。これから核家族化が進んで、1人暮らしの方も増えていく。だから家族だけじゃなく、社会の中で自分がどういう存在であるべきかを考えながら、最後を締めくくれる、そういう大人の社会になってほしいと思います。なるようになれで自分勝手に生きるのもいいけれど、自分が今こうして生きていられるのは誰かが支えてくれているからだということを、皆が常に忘れないでいられたら、と思います。
早川:前回から引き続き、死生観について前後編でお伺いしましたが、本当に濃い話でした。
林:思いつきで言っているように聞こえるかもしれないけれど、これは全部30年・40年かけて自分の中に染み込んだ考え方だと思います。だから自然に出てくる。
それから、この番組、打ち合わせなしでいきなりやってるから、お互い準備せずに本音で話せるね。それが逆に自然で面白い話になっているんだと思います。6月もこの調子でいきましょう。
早川:そうしましょう。これからも、よろしくお願いします。(了)
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